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青森地方裁判所 昭和61年(行ク)2号 決定 1986年7月04日

申立人

青森県地方労働委員会

右代表者会長

高橋牧夫

被申立人

三八五交通株式会社

右代表者代表取締役

伊藤彰亮

右代理人弁護士

高橋勝夫

清水謙

主文

本件申立を却下する。

理由

一  本件申立の趣旨および理由は別紙のとおりである。

二  申立人が青地労昭和五八年(不)第二六号、昭和五九年(不)第一〇、一一号不当労働行為救済申立事件につき被申立人に対してなした昭和六〇年一一月五日付救済命令は、被申立人において三八五交通労働組合の組合員たる従業員に対し昭和五八年八月から同年一〇月まで観光ハイヤーの配車回数を少なくして差別したこと、昭和五九年一〇月二一日から同年一二月一三日まで右組合と時間外労働に関する協定を締結することを拒否してその間は右組合の組合員に時間外労働をさせずに不利益な取扱いをしたこと、右期間中に配置転換、勤務交番について右組合の組合員を不利益に扱ったこと等の事実があり、これが労働組合法七条三号および一号の不当労働行為に該当するとし、これら差別、不利益取扱がなかったならば得べかりし各組合員の時間外割増賃金等の合計額に相当する七二〇万円を右組合に支払うよう命じ、あわせて謝罪文の掲示を命じたものであり、本件申立はそのうちの金員支払につき緊急命令を求めたものである。

三  緊急命令は、救済命令に重大かつ明白な違法がなく、かつ即時にこれを履行せしめる緊急の必要性がある場合にこれを発するものである。本件については前記救済命令につきその取消請求事件(当裁判所昭和六〇年(行ウ)第七号)が係属し、その適法性が争われているので、その本案判決前に右金員の支払を命ずるのを相当とする必要性があるかどうか検討するに、前記組合員の組合員は、観光ハイヤー配車につき差別され、あるいは時間外労働につき不利益取扱されたとする期間も就労し基本給を受けていたのであり、その後昭和五九年一二月一四日以降現在に至るまでは、時間外勤務を含めて他の従業員と同じように勤務しているものであるから、今ただちに前記金員の支払を受けなければその生活を維持できない程の経済的不利益を生じているとは認められないし、右金員の支払を受けないことによる精神的打撃のため組合の団結権維持に相当の困難が生ずるという事情も認められない。また、組合の収支報告をみると、右期間を含めて現在までの間、組合費収入が申立人認定にかかる不当労働行為のために著しく減少したことは認められず、活動資金が枯渇して組合の団結権維持のためただちに金員の支払を受くべきさし迫った必要性があるということもできない。

四  このように、本件については本案事件である救済命令取消請求事件の判決前に前記金員の支払を命じることを相当とする緊急性は認められないから、本件申立はその必要性を欠いている。よってこれを却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 斎藤清實 裁判官 小林崇 裁判官 中村俊夫)

《参考1》

一、緊急命令申立書

申立人 青森県地方労働委員会

右代表者 会長 高橋牧夫

被申立人 三八五交通株式会社

右代表者 代表取締役 伊藤彰亮

申立人は、次のとおり緊急命令の申立てを行う。

昭和六一年五月二七日

申立人代表者 会長 高橋牧夫

申立人指定代理人 関谷耕一

(他五名)

青森地方裁判所民事部 御中

申立の趣旨

右当事者間の御庁昭和六〇年(行ウ)第七号救済命令取消事件の判決が確定するまで、被申立人は、申立人が、昭和六〇年一一月一四日、被申立人に交付した青地労委昭和五八年(不)第二六号及び昭和五九年(不)第一〇・一一号不当労働行為救済申立事件命令に従い、その主文第一項記載のとおり履行しなければならない。

との決定を求める。

申立の理由

一 申立外三八五交通労働組合は、被申立人三八五交通株式会社が、観光ハイヤーの配車について組合員を差別したこと、昭和五九年一〇月二一日から同年一二月一三日までの間、三六協定の締結を拒否したこと及び右期間中に配置転換・交番変更を行ったことは、いずれも不当労働行為であるとして、それぞれ、申立人に救済申立てをし、各昭和五八年(不)第二六号及び昭和五九年(不)第一〇・一一号として、申立人に係属した。

申立人は、審査の結果、昭和六〇年一一月五日、別紙(一)のとおりの命令を決定し、同月一四日、右命令書写しを被申立人に交付した。

二 これに対し、被申立人は、昭和六〇年一二月一二日、右命令の取消しを求める旨の行政訴訟を提起し、御庁昭和六〇年(行ウ)第七号救済命令取消事件として、現に係属中である。

三 被申立人は、右命令書写しの交付を受けた後も、これを無視する態度を続けているが、もし、本案訴訟が解決するまで現在の状態が継続するならば、申立外三八五交通労働組合の組合員の受ける経済的損失、精神的苦痛が大なることはもとより、労働組合の財政がひっ迫するとともに、組合員の組合活動上の権利・利益が侵害され、ひいては、労働者の団結権に回復することのできない損害を与えることは明らかであり、労働組合法の立法精神が没却されることになる。

この点については、申立外三八五交通労働組合からも、別紙(二)のとおり上申書が提出されているところである。

四 そこで、申立人は、労働委員会規則第四七条の規定に従い、昭和六一年二月四日、第六九三回公益委員会議を開き、労働組合法第二七条第八項の規定に基づき、緊急命令を申し立てることを決定した。

よって、本件申立てに及んだ次第である。

付属書類

一 議事録写し 一通

一 指定書 一通

《参考2》 三八五交通事件・青森地労委命令

命令書(青森県地方労働委員会昭和五八年(不)第二六号、昭和五九年(不)第一〇・一一号昭和六〇年一一月五日命令)

申立人 三八五交通労働組合

執行委員長 中村文男

被申立人 三八五交通株式会社

代表取締役 伊藤彰亮

上記当事者間の青地労委昭和五八年(不)第二六号及び昭和五九年(不)第一〇・一一号不当労働行為救済申立事件について、当委員会は、昭和六〇年一一月五日第六八九回公益委員会議において合議の上、次のとおり命令する。

主文

一 被申立人三八五交通株式会社は、申立人三八五交通労働組合に対し、七、二〇〇、〇〇〇円を支払わなければならない。

二 被申立人は、この命令書の写しの交付の日から七日以内に下記の文書を申立人に手交するとともに、同一内容の文書を縦一メートル、横二メートルの白色木板に読みやすく墨書して、被申立人本社の正面玄関及び各営業所の見やすい場所に一〇日間掲示しなければならない。

昭和 年 月 日

三八五交通労働組合

執行委員長 中村文男殿

三八五交通株式会社

代表取締役 伊藤彰亮

当社が貴組合の組合員を観光ハイヤーの配車において差別したこと及び昭和五九年一〇月二一日から一二月一三日までの間、乗務員に対し、配置転換を行ったことは、労働組合法第七条第三号に該当する不当労働行為であると青森県地方労働委員会に認定されました。

よって、当社は今後このような不当労働行為を繰り返さないことを誓います。

(注 年月日は、文書を掲示する日を記載すること。)

三 申立人のその余の申立ては、これを棄却する。

理由

第一 認定した事実

一 当事者等

(1) 被申立人三八五交通株式会社(以下「会社」という)は、肩書地に本社を置き、一般乗用旅客自動車運送業(ハイヤー・タクシー)を営む会社である。会社は、青森県八戸市、三沢市及び三戸郡福地村に一〇箇所の営業所を有し、営業用車両二三五台、従業員数は約五七〇名(うち乗務員四八二名)である。

(2) 申立人三八五交通労働組合(以下「交通労組」という)は、肩書地に事務所を置き、会社の従業員で組織する労働組合であり、組合員数は一二八名である。

(3) 会社には、交通労組の他に、乗務員で組織する三八五労働組合タクシー支部(以下「タクシー支部」という)及び整備員と事務員で組織する三八五労働組合交通支部の二つの労働組合がある。

二 八三春闘における争議の経過

(1) 昭和五八年四月一五日、交通労組は、会社に対し、賃金引上げほか六項目の要求書を提出した。これに関する団体交渉が数回にわたり行われたが、交通労組の要求に対し、会社が、賃金体系、退職金制度及び年間一時金支給基準の改定等を逆提案するなど、労使の主張が対立し、進展がなかった。

(2) この状況から、交通労組は、会社に対し、五月六日、翌七日からストライキを行う旨を通告したため、会社は五月七日、当委員会に対し、会社の提案を調停事項として、調停を申請した。五月一三日、調停委員会が開催され、調停委員会は、当事者に対し、自主交渉を継続するよう求め、その状況により次回調停委員会を開催することとしたが、五月二三日に至り、会社は、調停申請を取り下げた。この間も、交通労組は、ストライキを行っており、結局、五月七日から五月三一日までの間に、五波延べ一四日間にわたるストライキを行った。

(3) これに対し、会社は、五月三一日、交通労組の第五波ストライキ終了と同時にロックアウトを行った。このロックアウト中の七月一七日に行われた団体交渉で、交通労組は、春闘要求を取り下げ、会社に対し、ロックアウトの解除を求めたが、会社は、自己の提案が受け入れられなければロックアウトは解除できないとし、団体交渉は、決裂した。

(4) そこで、交通労組は、七月一九日、当委員会に対し、ロックアウトの解除及び組合員の就労をあっせん事項として、あっせんを申請した。このあっせんで、あっせん員は、七月二〇日、<1>会社は、ロックアウトを解除し、交通労組の組合員を就労させること、<2>交通労組は、会社の提案についての交渉に応ずること等を内容とするあっせん案を当事者に対して提示し、両者がこれを受諾したことから、ロックアウトは解除され、組合員は七月二三日から就労した。

(5) このロックアウト中に、交通労組から脱退した三十数名が、七月一五日、タクシー支部を結成した。タクシー支部と会社とは、七月一九日の団体交渉で、会社の提案する賃金体系、退職金制度及び年間一時金支給基準の改定について合意に達し、タクシー支部組合員は、七月二二日から就労した。

(6) ロックアウト解除後、会社の提案した賃金体系、退職金制度及び年間一時金支給基準の改定について、交通労組と会社とは交渉を行ったが、進展を見ず、交通労組は、一一月二二日、当委員会に対し、この件を仲裁事項として、仲裁を申請し、仲裁委員会は、賃金体系及び年間一時金支給基準について、一二月一〇日、仲裁裁定書を交付した。退職金制度の改定については、その後、自主交渉が行われ、昭和五九年一月一六日、合意に達した。

(7) また、交通労組からは、本件救済申立ての他に、三件の申立てがなされたが、いずれも和解により解決した。

三 観光ハイヤーの配車

(1) 会社では、従来から主に中型車を用いて、貸切りの観光ハイヤーを営業している。これは、会社が、全国の観光あっせん業者(以下「エージェント」という)と契約し、エージェントが顧客と契約したものを会社に送客し、会社が、エージェントの設定したコースを運行するという形態をとるものがほとんどで、エージェントからの送客に応じて、管理職が乗務員に配車をしている。また、運行コースは、数県にわたる遠距離のものもあるが、比較的近距離である十和田湖方面が多数を占めている。

(2) 観光ハイヤーの受注があるのは、例年五月から一〇月までであるが、昭和五八年は、争議があった関係上、中型車が観光ハイヤーとして稼働したのは、八月から一〇月までであり、そのうち、例年並みに稼働したのは一〇月のみであった。

(3) 昭和五八年八月から一〇月までの間、本社営業所所属の乗務員に対する観光ハイヤーの配車状況は、別表一のとおりであった。

(4) 交通労組は、観光ハイヤーの配車において、交通労組組合員がタクシー支部組合員と差別されているとして、昭和五八年一〇月八日、当委員会に対し、<1>配車差別の禁止<2>陳謝文の掲示<3>公正な配車のための具体的な施策の実施<4>差別によって生じた賃金格差の支払いを求めて救済申立て(昭和五八年(不)第二六号)を行った。

(5) その後、会社は、三沢営業所に所属する交通労組組合員をすべて中型車の担当からはずした。

(6) また、昭和五九年三月二四日、会社は、交通労組に対し、交通労組組合員を観光ハイヤー業務に就かせない旨の通告を行い、四月一日、別表二のとおり、本社営業所所属の交通労組組合員五名に対し、配置転換ないし乗務変更を行った。そのため、観光ハイヤー業務担当の交通労組組合員は一人もいなくなった。

(7) 交通労組は、四月一日の配置転換ないし乗務変更は、救済申立てをした故の不利益取扱いであるとして、その取消し及び原職復帰を求めて、五月二二日、昭和五八年(不)第二六号事件に申立てを追加した。

四 昭和五九年一〇月二一日の時間外協定期限切れに至る経過

(1) 会社は、その業務の必要上、時間外労働及び深夜労働を前提とした勤務交番で乗務員を勤務させており、従来から、乗務員に時間外労働を命ずるに当たっての労働基準法第三六条に規定する協定(以下「三六協定」という)を全社一括して、全労働者の過半数で組織する交通労組と締結してきており、昭和五八年の争議終結後も交通労組と昭和五八年七月二一日に、同日から昭和五九年七月二〇日までの期間の全社一括の三六協定を、昭和五九年七月一七日に、七月二一日から一〇月二〇日までの期間の全社一括の三六協定を、それぞれ締結し、八戸労働基準監督署長に届け出ていた。また、会社は、交通労組との三六協定とは別に、タクシー支部とも七月一八日に、七月二一日から一年の期間で、三六協定と同内容の時間外労働に関する協定を締結していた。

(2) 昭和五九年一〇月一八日、会社の労使交渉の窓口である奥寺総務部次長は、交通労組の労使交渉の窓口である大西書記長に対し、それまでの三六協定が一〇月二〇日で期間満了となるので、新たな三六協定を一年の期間で締結するよう口頭で要請した。これに対し、大西書記長は、同日開催中であった交通労組の執行委員会で検討する旨回答した。

(3) 一〇月二〇日午後五時三〇分ころから、交通労組から、大西書記長、会社から、田村総務部長、生田営業部長及び奥寺総務部次長が出席して、三六協定締結についての窓口交渉が行われた。この中で大西書記長は、執行委員会の決定として、一箇月の期間での締結を主張して、会社の一年の期間での締結という主張と対立し、進展がなかった。また、この交渉の席に、一時会社の伊藤社長が立ち寄り、翌年三月ころまでの約六箇月の期間での締結を促す発言をした。

(4) 窓口交渉で進展がなかったため、同日午後七時三〇分ころ、交通労組から、中村執行委員長、木村及び村上副執行委員長並びに大西書記長、会社から、亀本専務、田村総務部長及び奥寺総務部次長が出席して三役交渉が行われた。この中でも、三六協定の期間について、従来、協定時間が守られていないので、会社の協定履行状態をチェックするため、一箇月で締結したいという交通労組の主張と、事業計画の必要上一箇月での締結はできないという会社の主張とが対立し、話合いは平行線をたどったため、午後九時一〇分ころ、会社側が内部で相談するということになり、双方とも退席した。その後、午後一一時ころまで大西書記長と奥寺総務部次長との間に、二、三回ほど電話が交わされたが、結局、同日中に新たな三六協定は締結されず、それまでの三六協定は期間満了となった。

五 三六協定期限切れ後の状況

(1) 昭和五九年一〇月二一日早朝、会社は、交通労組と三六協定が締結できなかったから、できる限りの車両を動かすためには、三六協定を締結できる組合と協定を結ぶ必要上、配置転換する旨を記載した「運転者の配置転換について」と題する文書を、各営業所に掲示するとともに、乗務員の配置転換を行った。その結果、会社の一〇箇所の営業所のうち、本社営業所、新井田営業所及び三沢営業所の三営業所では、タクシー支部組合員が所属乗務員の多数を占めることとなった。そして、会社は、前記三営業所において、タクシー支部組合員を営業所代表として、営業所ごとに一年の期間の三六協定を締結し、これらの三営業所に所属する乗務員を月四八時間三〇分の時間外労働を含む従来どおりの勤務交番で就労させた。前記三営業所以外の七営業所に所属する乗務員は、会社の交番変更命令により、時間外労働を含まない勤務交番で就労することとなった。

(2) 一〇月二四日、会社は、交通労組には三六協定の締結を要請しない旨を記載した「三六協定について」と題する文書を、各営業所に掲示した。

(3) 一〇月二五日、交通労組は、当委員会に対し、交通労組を当事者とした三六協定の締結をあっせん事項として、あっせんを申請したが、会社はあっせんに応じなかった。

(4) 以上のことから、乗務員間に交通労組を脱退してタクシー支部へ加入する動きが高まり、そのためタクシー支部組合員は、日を追って急速に増加した。こうした急速な組合間移動と連日のように多数の乗務員に対して行われる会社の配置転換とによって、前記三営業所以外にもタクシー支部組合員が所属乗務員の多数を占める営業所が生ずるに至った。会社は、こうした営業所が生ずるごとに、漸次タクシー支部組合員を営業所代表として三六協定を締結していった。このようにして、一〇月二九日に苫米地営業所で、一一月三日に八戸駅前営業所で、一一月五日に鮫営業所で、一一月七日に桔梗野営業所で、それぞれ、昭和六〇年一〇月二〇日までの期間の三六協定が締結された。また、既に三六協定が締結された営業所内部での組合員比率においてもタクシー支部組合員がますます増加していった。

(5) 以上の経過の中で、交通労組は、会社が交通労組との三六協定締結を拒否しているのは差別であり、支配介入であるとして、会社の三六協定締結拒否の禁止及び三六協定未締結期間中の得べかりし賃金等の支払いを求めて、一一月五日、当委員会に対し、救済申立て(昭和五九年(不)第一〇号)を行った。

(6) 一〇月二九日、三沢駅前営業所に所属する交通労組組合員は、交通労組から脱退して新組合を結成し、会社に対し、三六協定の締結を求めたが、会社は、これを拒否した。その後、これらの乗務員が、タクシー支部に加入したところ、一一月一六日、三沢駅前営業所においても三六協定が締結された。

(7) この結果、会社の一〇営業所のうち、三六協定が締結されていない営業所は、白銀及び吹上の二営業所のみとなった。そして、一〇月二〇日当時三三四名であった交通労組組合員は、一一月一九日現在では、この二営業所に所属する七〇名のみとなり、かつ、この二営業所の乗務員は全員が交通労組組合員であり、他の八営業所の乗務員は全員がタクシー支部組合員となった。

(8) 一一月一九日、交通労組は、会社が行った配置転換・交番変更命令は、支配介入であるとして、その撤回及び昭和五九年一〇月二〇日当時の職場・交番への復帰並びに陳謝文の掲示を求めて、当委員会に対し、救済申立て(昭和五九年(不)第一一号)を行った。

(9) こうした動きの中で、交通労組は、一一月一九日、会社に対し、六箇月の期間で三六協定を締結するよう求め、団体交渉を申し入れたが、会社はこれを拒否した。また、一一月一七日、吹上営業所について交通労組組合員根城信一が全運転手の代表として、一一月二四日には、白銀営業所について、交通労組組合員中村光雄が全運転手の代表として、それぞれ、会社に対し、営業所ごとに三六協定を締結するよう請願書を提出したが、会社は受取りを拒否した。

(10) 以上のことから、交通労組は、当委員会に対し、一一月二七日、昭和五九年(不)第一〇号事件について、三六協定の締結を求める実効確保の措置の申立てを行った。これについて、当委員会は、一二月四日、会社に対し、交通労組組合員の所属する白銀及び吹上営業所につき、会社がその余の営業所で乗務員と締結した三六協定と同様の三六協定を締結すること及び交通労組組合員を他の乗務員と同様の勤務交番で就労させること等を内容とする勧告を行ったところ、一二月一三日、会社と交通労組とは、三六協定を締結し、翌一四日から、交通労組組合員は、タクシー支部組合員と同じ勤務交番で就労することとなった。

六 昭和六〇年五月一五日付けの配置転換について

(1) 会社は、昭和六〇年五月一五日付けで、乗務員七二名の配置転換を行ったが、その内訳は、交通労組組合員三五名、タクシー支部組合員三七名であった。

(2) 配置転換の内容については、交通労組組合員は、一〇名が昭和五九年一〇月二〇日当時の所属営業所に戻ったものの、二五名は、その当時とは別の営業所への発令であり、タクシー支部組合員は、二六名が、昭和五九年一〇月二〇日当時の所属営業所へ戻り、一一名が、その当時とは別の営業所への発令であった。また、この配置転換によって、交通労組の執行部の大部分は、吹上営業所に所属することとなった。

(3) 交通労組は、この配置転換は、差別であり、支配介入であるとして、これを撤回し、交通労組組合員を昭和五九年一〇月二〇日当時の所属営業所に戻すことを求めて、昭和六〇年五月二八日、昭和五九年(不)第一一号に申立てを追加した。

第二 判断及び法律上の根拠

一 観光ハイヤーの配車について

(1) 当事者の主張

ア 交通労組は、昭和五八年八月から一〇月までの間において、交通労組組合員に比してタクシー支部組合員に対する観光ハイヤーの配車回数が多い。この配車回数の差により、稼働額に差が生じ、ひいては、タクシー支部組合員との間に賃金格差が生じている。このことは、交通労組組合員であるが故の差別であり、交通労組の弱体化を図ったものである旨主張する。

イ これに対し、会社は、観光ハイヤーの配車については、そもそも、受注、勤務交番及び乗務員の能力に左右されるため、均等な配車は不可能であり、問題になっている昭和五八年においては、受注が大幅に減ったこと及び組合間の対立によるトラブル防止のため、運行中別組合の組合員と会わないように配車したといった事情があり、特に配車の均等化が困難であった。また、稼働額の多寡は、個人の生産意欲の問題である旨主張する。

(2) 判断

ア 昭和五八年八月から一〇月までの間において、本社営業所所属の交通労組組合員とタクシー支部組合員との間で、観光ハイヤーの配車回数に差があるのは、別表一のとおり明らかである。

イ 交通労組は、このことにより稼働額の差が生じているとするのに対し、会社は、稼働額の多寡は個人の生産意欲の問題だとする。もとより、稼働額に個人差があるのは当然であろうが、概して、観光ハイヤーの配車回数が多くなればなるほど稼働額も多くなることが認められ、これを覆すに足る疎明はない。

ウ 会社は、配車回数に差が出た理由として、前記のとおり主張するが、それぞれ検討すると、確かに、受注の際に勤務日に当たっている乗務員でなければ配車することができないという事情はあり得ることであるが、ほぼ同人数の集団間において約二倍に近い格差の生ずる理由としては首肯し難く、また、当該事情と配車回数の格差との関連性について具体的な疎明がない。

エ また、乗務員の能力、すなわち、運行コースについての知識、接客態度等に差があるため、乗務員によっては、仮に勤務日であっても配車できないとの事情も、前述のとおり、ほぼ同人数の集団間で比較して、一方のみが能力が劣る者の集団であるとは措信し難く、かつ、このことについて特段の疎明のないこと及び観光ハイヤーの運行コースのうち、最も受注の多いのは、比較的短距離である十和田湖方面であり、特別の知識を要する遠距離のコースはわずかであることからすれば、この点も首肯し難い。

オ さらに、会社は、昭和五八年において、配車の均等化ができなかった理由として、受注の減少及び組合間の対立によるトラブル防止をあげているが、前者は、疎明によれば、ほぼ例年並みに観光ハイヤーが稼働した一〇月においても、前述のとおり二倍近くの格差があったことからして、合理性に乏しく、また、後者も、このことと配車回数との具体的な関連性が明らかでない。

カ その他、会社の主張する配車に対する拒否、乗務員の準備不足による配車の不能等の点も、全体的な配車回数の格差が生じた理由とはなり得ない。

キ 以上のとおり、交通労組組合員とタクシー支部組合員との間に観光ハイヤーの配車回数の差が生じたことには合理的理由が認められない。このことと、認定した事実のとおり長期にわたる争議後であり、労使間に対立感があったこと及び昭和五八年九月末から一〇月初めにかけて、交通労組を脱退し、タクシー支部に加入した者が、配車回数が増え、ひいては稼働額が増えていることを勘案すると、会社の行為はタクシー支部組合員を優遇することにより、交通労組の動揺を図ったものと認めざるを得ない。この点につき、交通労組は、労働組合法第七条第一号及び第三号に該当すると主張するが、当委員会は、労働組合法第七条第三号のみに該当すると判断する。

二 昭和五九年四月一日発令の配置転換ないし乗務変更について

(1) 当事者の主張

ア 交通労組は、昭和五九年四月一日発令の配置転換ないし乗務変更は、観光ハイヤーをタクシー支部組合員のみの特典にすることで、一層差別を強め、交通労組組合員に著しい不利益を課すもので、労働委員会に対し、救済申立てをしたことを理由としてなされたものである旨主張する。

イ 会社は、この配置転換ないし乗務変更は、業務の必要から会社の人事権及び管理権の範囲内で行ったものであり、特に乗務変更は、乗務員間のトラブル防止の必要もあったためである。また、このことにより、稼働額の面でも通勤距離の面でも何ら不利益取扱いとはなっていない旨主張する。

(2) 判断

この配置転換ないし乗務変更は、観光ハイヤーの配車差別が当委員会で争われているさなかに、その理由の是非はともかくとして、救済対象者である交通労組組合員に対してなされたものであり、交通労組が問題とするのも当然であるが、そもそも、交通労組組合員が受けた不利益について具体的な疎明がない以上、交通労組の主張は認め難く、会社の行為が労働組合法第七条第四号に該当するとは判断し難い。

三 三六協定締結拒否及び配置転換・交番変更命令について

(1) 当事者の主張

ア 交通労組は、会社が、交通労組との三六協定締結を拒否し続け、他方、タクシー支部組合員とは、従来の慣行を覆し、営業所ごとに三六協定を締結し、タクシー支部組合員のみに時間外労働をさせることにより、交通労組組合員に賃金及び一時金について著しい損害を与えた。このことは、交通労組組合員であるが故の不利益取扱いであり、交通労組に壊滅的打撃を与えようとしたものである。また、昭和五九年一〇月二一日以降交通労組組合員に対して行った配置転換及び交番変更は、タクシー支部組合員と三六協定を締結するために行ったもので、交通労組の弱体化を意図したものである旨主張する。

イ 会社は、三六協定の締結を拒否したのは、むしろ交通労組の側であり、そのため無協定状態となったが、収入減及び利用客に与える不便を最小限にくい止めるため、できる限りの車両を稼働させる必要から、三六協定を各営業所の代表であるタクシー支部組合員と締結したものである。また、配置転換は、前述の必要に加えて、タクシー支部と締結していた時間外労働に関する協定を履行するため最小限の範囲で行ったものであり、交番変更は、三六協定が締結されていない以上、交通労組組合員には時間外労働をさせられないので、その必要上行ったものである旨主張する。

(2) 判断

ア 昭和五九年一〇月二一日から一二月一三日まで、交通労組と会社との間に、三六協定が締結されず、交通労組組合員が時間外労働を含まない勤務交番で勤務していたことは争いがない。

イ ところで、ハイヤー・タクシー業の特殊性からして、会社は、事業運営上、乗務員に時間外労働をさせなければならず、そのため、三六協定の締結は、会社にとって欠くことのできないものである。他方、乗務員にしてみれば、賃金体系が時間外労働を前提として組み立てられていることから、時間外労働ができなければ賃金が大幅に減少する。現に、前記三六協定未締結期間中、三六協定未締結を理由とする会社の交番変更命令により、交通労組組合員が勤務していた勤務交番は、タクシー支部組合員のそれに比して、月四八時間三〇分の時間外労働が含まれていないため、交通労組組合員は、時間外労働の割増賃金四八時間三〇分相当分及び深夜労働の割増賃金一三時間相当分が不支給となり、また、稼働時間の短縮により、稼働額が減少し、稼働額に応じて支給される歩合給と一時金が減少したことが認められる。

ウ このように、三六協定は、会社にとっても、乗務員にとっても不可欠なものであるため、会社、交通労組の双方とも、それまでの三六協定の期間満了に際し、新たな三六協定を締結する必要があったことは認められ、また、実際に、昭和五九年一〇月二〇日、三六協定締結に関する交渉を行ったのであるが、結局、三六協定は締結されず、無協定状態となった。このことについて、交通労組、会社の双方とも、相手が拒否したと主張するが、認定した事実のとおり、理由の是非はさておき、期間の点で、双方が自己の主張に固執して、最終的に譲歩できなかったこと、また、交渉の経過からして、双方とも交渉態度に誠実さがみられないことを勘案すると、無協定状態に至ったことについて、どちらか一方に責を負わせることはできない。

エ しかしながら、無協定状態に入ってから会社のとった措置には、次のとおり問題がある。まず、一〇月二一日早朝、各営業所に「運転者の配置転換について」と題する文書を掲示するとともに、その記載のとおり乗務員の配置転換を行い、その結果、タクシー支部組合員が多数となった三営業所において、従来の三六協定の締結方法とは異なり、営業所ごとにタクシー支部組合員を営業所代表として、三六協定を締結した。

オ これについて、会社は、営業所ごとに三六協定を締結したのは、収入減及び利用客に与える不便を最小限にくい止めるため、できる限りの車両を稼働させる必要上行ったものであり、また、この理由に加え、タクシー支部との協定を履行する必要上配置転換を行ったと主張するが、収入減及び利用客に与える不便をくい止めるためには、従来どおり交通労組と全社一括の三六協定を締結した方が有効であるのは明らかであるし、そうすれば、同時に、タクシー支部との協定を履行することにもなる。現に、昭和五九年七月二一日から一〇月二〇日まで、会社は、そのようにして、タクシー支部との協定を履行していた。なるほど、交通労組とは、新たな三六協定を締結できなかったことは認められるが、それは、あくまでも、期間について双方の主張が対立していたためであって、交通労組が、三六協定の締結それ自体を積極的に拒否していたわけではない。また、前述のとおり、交通労組にとっても、三六協定の締結は、賃金体系からして不可欠のものであることからすれば、交通労組には締結の意思があったことが推認でき、このことは、交通労組が、一〇月二五日、当委員会に対し、あっせんを申請したこと、一一月一九日、会社に対し、三六協定締結についての団体交渉を申し入れたことからも明らかである。にもかかわらず、会社は、会社にとっても合理的と考えられる交通労組との全社一括の三六協定の締結を拒み、あえて前述の措置をとった。

カ 以上のことからして、会社のとった措置は、無協定状態下においてやむを得ず行ったものと言うよりは、むしろ、無協定状態が生じたことを奇貨として、タクシー支部組合員のみに時間外労働をさせるため行った意図的なものと推認せざるを得ない。このことは、会社が、一〇月二一日及び一〇月二四日に掲示した文書の記載内容、前述のあっせんに応じなかったこと並びに交通労組を脱退した三沢駅前営業所の乗務員が結成した新組合の三六協定締結の要請を拒否し、これらの乗務員がタクシー支部に加入すると、三六協定を締結したことからも推認できる。

キ さらに、会社が、一一月一九日に交通労組が申し入れた期間六箇月の三六協定締結を求める団体交渉を拒否したこと並びに一一月一七日及び一一月二四日、白銀及び吹上の営業所代表が提出した三六協定締結を求める請願書の受取りも、合理的な理由もなく拒否したことを勘案すると、結局、会社は、交通労組組合員には、その所属組合の故に、時間外労働をさせないという差別的意思を有していたことが推認でき、これを覆すに足る疎明はない。

ク 以上のとおり、会社が、昭和五九年一〇月二一日から一二月一三日までの間、交通労組との三六協定の締結を拒否し、交通労組組合員に時間外労働をさせなかったのは、交通労組組合員に対し、不利益な取扱いをすることにより、交通労組の壊滅を図ったもので、労働組合法第七条第一号及び第三号に該当する不当労働行為と認められる。

ケ また、前記期間中に会社が行った配置転換・交番変更について、会社は、配置転換は収入減及び利用客に与える不便を最小限にくい止めるため、できる限りの車両を稼働させる必要があったことに加え、タクシー支部との協定を履行する必要上行ったものであり、また、交番変更は、三六協定が締結されていない以上、交通労組組合員には時間外労働をさせられないので、その必要上行ったと主張するが、前記オのとおり、配置転換の必要性についての会社の主張には合理性が認められず、また、交番変更についても、交通労組との三六協定未締結状態が会社の差別取扱いによって生じたものと認められるから、会社の主張は採用できない。このことと、配置転換の結果、タクシー支部組合員が多数となった営業所ごとに三六協定が締結されることにより、タクシー支部組合員が時間外労働を含む勤務交番で勤務することになったのに対し、交通労組組合員が、交番変更により、時間外労働を含まない勤務交番で勤務することになったことを勘案すると、結局、前記期間中の配置転換・交番変更は、タクシー支部組合員のみに時間外労働をさせ、交通労組組合員には時間外労働をさせないという差別状態を作り出し、これを維持するための手段として行われたものと認められ、これにより、交通労組の壊滅を図ったもので、労働組合法第七条第三号に該当する不当労働行為と認められる。

四 昭和六〇年五月一五日発令の配置転換について

この配置転換について、交通労組は、差別・不利益取扱いであり、支配介入であると主張する。確かに、それ以前の配置転換が不当労働行為であると争われているさなかに重ねて行われた行為であり、交通労組が問題視するのも肯ける。しかし、主張についての疎明がなく、不当労働行為とは認め難い。

五 救済方法

(1) 以上のとおり、観光ハイヤーの配車差別、会社が、昭和五九年一〇月二一日から一二月一三日までの間、交通労組との三六協定の締結を拒否したこと及び前記期間中の配置転換・交番変更命令は、いずれも不当労働行為であり、救済する必要がある。

(2) 観光ハイヤーの配車差別に対する救済として交通労組は、<1>配車差別の禁止<2>陳謝文の掲示<3>公正な配車のための具体的な施策の実施<4>差別によって生じた賃金格差の支払いを求めているが、そもそも、個人の受けた損害が具体的に確定できないこと、救済対象者のほとんどが交通労組を脱退していること等を勘案すると、主文第二項のとおり命ずるのが相当である。

(3) 三六協定締結拒否に対する救済として、交通労組は、三六協定締結拒否の禁止及び三六協定未締結期間中の得べかりし賃金等の支払いを求めている。

三六協定締結拒否の禁止については、既に当事者間で三六協定が締結されているから、命ずる必要はないが、会社の三六協定締結拒否という経済的侵害行為によって、交通労組は、組合員が激減し、壊滅的打撃を受けたことから、労使関係秩序の回復ないし組合活動一般に対する侵害の除去が救済制度の目的であることを勘案し、交通労組に対する金員の支払いを命ずることが相当である。ところで、その金額の決定に当たっては、不当労働行為による組合活動一般に対する侵害の程度が、組合員個人が受けた実害の程度と密接な関連を持つものであるから、交通労組組合員の受けた実害を算定する必要がある。しかしながら、この業種の賃金は稼働額により大幅に変動することから、その金額を正確に算定することは困難である。したがって、疎明によって得られた交通労組組合員六五名の基本給額及び昭和五九年一一月の稼働額並びに昭和五九年一〇月二一日から一二月一三日までの間、交通労組組合員及びタクシー支部組合員が、それぞれ、勤務していた勤務交番を算出基礎として得られた金額、すなわち交通労組組合員が時間外労働ができなかったことによって生じた時間外・深夜労働の割増賃金及び歩合給の損失分並びに前記期間を算定期間に含む昭和五九年年末及び昭和六〇年夏期一時金の損失分相当額を考慮した金員の支払いを、主文第一項のとおり命ずることとする。

(4) また、三六協定未締結期間中の配置転換・交番変更命令に対する救済として、交通労組は、その撤回及び昭和五九年一〇月二〇日当時の職場・交番への復帰並びに陳謝文の掲示を求めている。このうち、昭和五九年一〇月二〇日当時の交番へは既に復帰しているので、その撤回及び復帰については命ずる必要がない。配置転換の撤回及び昭和五九年一〇月二〇日当時の職場への復帰については、元の職場への復帰の必要性が明らかでないこと、配置転換の対象者が交通労組組合員だけではないこと等を勘案すると、主文第二項のとおり命ずるのが相当である。よって当委員会は、労働組合法第二七条及び労働委員会規則第四三条により主文のとおり命令する。

青森県地方労働委員会

会長 高橋牧夫

別表一

<省略>

別表二(略)

別紙(二) (略)

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